ある投資信託会社のセミナーにお邪魔したら、お客さんとの質疑応答の最後に「危ない金融商品のセールスの特徴を教えてください」と質問された。予想外の質問だったので、話しながら答えを考えた。以下の文章の「顧客」という文字は「カモ」と読んでほしい。
第1の特徴は、前フリに「大変だ!」という脅しがあることだ。
脅しの材料ははやりすたりがある。今なら、財政赤字による経済破綻と老後の生活不安をあおるのがトレンドか。日本経済は破綻し、円は価値を失うので、海外のプライベートバンクに資産を移せ、あるいは、外貨投資、あるいは金などを買えというセールスだ。
老後の生活不安のほうは、引退時までに何千万円か(あるいは1億円)ないと、老後の生活が成り立たないという脅しだ。投資信託による積み立て投資など、「商材」の筋は必ずしも悪いものばかりではないが、手数料の大きな商品である場合もあって、気が抜けない。
当欄で何度も書いてきたが、化粧品、健康食品、生命保険、霊感の壷、家のリフォーム等の粗利の大きな「怪しい商品」は、顧客が焦るような「大変な状況」をイメージさせたうえで、そのソリューションとして売り込むのが定石だ。
第2の特徴は、年率4~8%くらいの「ほどよい」目標利回り設定だ。
年率1割、2割といった大きな利回りに釣られる顧客もいるにはいるが、多くのまじめな人びとは、1割、2割には小さからぬリスクがあることを感じている。しかし、過去の金利水準の記憶もあって(有望な顧客の多くは中年以上の小ガネ持ちだ)「ほどほど」の利回りなら、信じてしまうケースが多い。毎月分配型の投資信託が典型的だが、「ほどほどの利回りに注意せよ」と申し上げておく。もちろん、ほどほどでない利回りが怪しいのは当然の常識だ。
第3の特徴は、「あなたにピッタリだ!」と強調することだ。
運用にあって、本当は、リスクとリターンだけが問題なのだが、商品が顧客の個人的な特徴に合致していると言い聞かせると、愚かな顧客は感動する。商材は保険をはじめとしていろいろだ。この場合も、商品の選択が甘くなりがちだ。
第4に、「気がすむ」ことを強調することが多い。
たとえば、退職金のようなまとまったおカネを持っている場合に、これを数回に分けて投資することは、余計な手数料がかかり、加えて、投資が遅れることに対する機会費用が発生するので、本当は合理的ではない。しかし「初期の投資が儲かれば投資していてよかったと思うし、投資対象が値下がりすれば全部投資していなくてよかったと思えるでしょう」と促されると、商品に対する警戒心を甘くして投資に向かう可能性が生じる。ドルコスト平均法に効用があると信じて積み立て投資に動員される顧客の心理も同類だ。
4つのセールストークは、いずれも顧客の「感情」に訴え、「勘定」を甘くする。顧客が感情にこだわって合理的な判断から離れるほど、金融業者側の儲けの余地が広がる。
セミナーでは答えられなかったが、顧客が悪魔から救われる呪文を二つ思いついた。
- 「この商品のリスクの大きさを数字で教えてください」と
- 「この商品が売れると、あなたはいくら儲かるのですか」だ。
いずれの質問に対しても、具体的な数字を答えない相手は何かをごまかしている。そして、そもそも、セールスマンの話を聞く必要はない。何を買うかを、売り手に相談するのは愚かなのだ。
— 危ない金融商品セールス4つの特徴|山崎元のマネー経済の歩き方|ダイヤモンド・オンライン (via darylfranz)
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